カトリック司祭による結核療養所の開設から始まった社会福祉法人「ロザリオの聖母会」。その歩みは、常に時代の要請に応じ、最も支援を必要とする方々へ手を差し伸べる変遷の連続でした。 理学療法士からキャリアをスタートし、現在は「旭市中央地域包括支援センター」の所長を務める井上創氏は、制度の「外側」にある課題と向き合い続けてきました。 「あさひの芸術祭」を通じた地域づくりから、災害に強いコミュニティの構築まで——。福祉を単なる奉仕ではなく、地域を持続させるためのインフラと捉える井上氏。彼が描く、点と点をつなぎ「面」で支える地域福祉の未来を伺いました。
リハビリ職から地域包括のリーダーへ
── まずは井上様のキャリアの歩みについてお聞かせください。一度、地元を離れられていたそうですね。
はい。金沢で学び、現地で就職もしましたが、1997年頃に地元へ戻ってきました。当時は、自分の年齢や立場が上がるにつれて地域の中で担うべき役割も変化していくという地元の文化を肌で感じており、「自分も地域の力になりたい」という思いがあったからです。 病院のリハビリ職を経て、介護保険制度の開始とともにケアマネジャーとなり、現在は地域包括支援センターの運営など、手探りの中で統括的な役割を任されています。

── 現場でのコミュニケーションで大切にされていることはありますか?
私の原点は精神科での実習経験にあるのですが、そこで学んだのは「形式にとらわれない対話」の重要性です。例えば、何気ない雑談の時間や、相手が安心感を持てるような振る舞いなど、マニュアルにはない「現場の知恵」が、今の地域支援のベースになっています。
「あさひの芸術祭」から見えた、
予防的な地域づくり
── 最近では「あさひの芸術祭」など、福祉の枠を超えた活動もされていますね。
はい。「楽しいことをして人と人がつながる」という予防的な視点を大切にしています。 「あさひの芸術祭」では、街全体を一つの美術館に見立て、地元のアーティストや住民が交流します。介護保険制度では「要介護」とされる方でも、実は素晴らしい表現力を持っていたりする。そうした方々を含め、地域の人々がつながる場を作ることが、私たちの役割だと考えています。
── そうした繋がりは、防災などの課題解決にもつながるのでしょうか。
その通りです。旭市は東日本大震災で大きな被害を受けました。だからこそ「防災」は重要ですが、その根っこにあるのは「身近な人たちと助け合える関係性」です。芸術や文化を通じて人と人がつながることが、結果として災害に強い地域づくりにつながると信じています。

「不便」を資源に変え、地域の歴史を物語化する
── この香取・海匝エリアの「可能性」をどう捉えていますか?
この地域には、語り直されるべき素晴らしい「物語」がたくさん眠っています。 かつて、この地域で多く生産されていた落花生油の搾りかすが電気を生み出した話や、ここから送られたデンプンが「アメ横」のルーツを支えた話など。落花生は今でもこの地域の特産品として家庭でも食べられていたり、焼酎(落花生焼酎ぼっち)として地域のお土産として流通したりしています。こうした地域の文脈を掘り起こし、可視化することが、郷土への理解と愛着を深めます。
── これからのケアマネジャーや福祉職には何が求められるでしょうか。
福祉や医療の枠にとらわれず、人と人をつなぐ「コーディネーター」としての役割です。 地域の魅力は、個々の商店やスポットという「点」で点在しています。移動の不便さをあえて「ゆっくり地域を味わう時間」と捉え直し、地元の物語を楽しむ仕掛けを作ったり、SNSで「人」にスポットを当てた発信をしたり。そうした「点」を「面」にする活動を通じて、新しい仲間を増やしていきたいですね。
「誠実な対話」から始まる、
やりがいのある職場づくり
── 求める人材像や、採用へのこだわりを教えてください。
面接では「飾らない説明」を徹底しています。仕事のやりがいだけでなく、大変な部分も包み隠さずお伝えします。 自ら課題を見つけ、主体的に動きたい方にとっては、裁量が大きく非常にやりがいを感じられる環境です。また、法人内には多様な事業所があるため、一人ひとりの適性に合った「輝ける場所」を一緒に探していけるのも、私たちの強みです。

── ここで働くことで得られる「手応え」とは何でしょうか。
以前、私がケアマネジャーとして担当した方のご遺族から「あなたと同じ資格を取りました」と報告をいただいたことがありました。自分の仕事が誰かの人生に影響を与えたと知った瞬間、この仕事の本当の報酬を受け取ったと感じました。
地元の風景と、作り手の想いを感じる食文化
── お気に入りのリフレッシュ方法やスポットを教えてください。
景色なら飯岡の灯台(刑部岬)ですね。360度のパノラマは圧巻です。 食事なら、飯倉の「らぁ麺 家康」や八日市場の「おたふく」「彦兵衛」、などなど…素敵なお店がたくさんあって選びきれないですのが難点です。
──おすすめの酒屋さんもあるとか…。
旭の「酒文(サカブン)商店」さんは地域のワインにも詳しくておすすめですよ。知人・友人へのお土産で地元のワインを持っていけるので、酒文さんにはいつもお世話になっています。
井上創氏について

執行役員/旭市中央地域包括支援センター所長
精神科病院にて経験を積み、現在は地域包括支援センターの管理職と辣腕を振るいながら、ロザリオの聖母会が運営する地域貢献事業「Mado-kaプロジェクト」のプロジェクトリーダーとして街づくりにチャレンジ中。
(取材後記)
「生産性」が重視される時代において、「あさひの芸術祭」のように「楽しさ」を起点に繋がりを育む井上氏の姿勢は、非常に現代的で力強く響きました。地域の歴史を紐解き、物語として再構成する視座は、福祉従事者という枠を超え、まさに地域プロデューサーそのもの。ここには、マニュアルでは測れない「人間らしい働き方」の原点があります。姿かたちは変わっているように見えても、「制度の外側に挑む」姿勢は一貫した軸であり、現代にこそ、より一層輝いてほしい。そう感じる印象深い取材でした。