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インタビュー

佐原の路地裏を“探検”の入り口に変える、観光ハブとしての挑戦

髙橋隆蔵さん

髙橋酒店4代目店主

「失敗」を知るソムリエが、老舗酒屋で起こした改革

100年以上の歴史を持つ佐原の街並み。その一角にある「髙橋酒店」の店主、髙橋隆蔵氏は、単なる「跡取り」の枠には収まらない経歴の持ち主です。
都内ホテルやワインバルでの修業を経てソムリエ資格を取得し、自身の飲食店経営では成田進出とその撤退という、経営者としての酸いも甘いも味わいました。父の急逝を受け、家業に戻った彼が断行したのは、古き良き慣習を尊重しつつも時代に合わせた見直しと、酒屋を「観光案内所(ハブ)」に変えるという独自の戦略。

「不便さの中にこそ、佐原の本当の魅力がある」と語る髙橋氏が見据える地域ビジネスの勝ち筋と、共に働く仲間に求める「佐原を語る力」に迫ります。


ホテル勤務、ソムリエ、そして成田での挫折。回り道こそが財産

──まずは、髙橋氏のこれまでの歩みについてお聞かせください。最初から家業を継ぐご予定だったのでしょうか。

幼い頃から商店街で大人に囲まれて育ち、社交的な子供で気付いたらご近所の家にいる、ということがよくあって親を驚かせていました(笑)。一方で、父が厳しかったこともあり、実は一度家を出て暮らしたかったという思いもありました。父からは「18歳から10年間は好きにしていい」と言われていたこともあり、高校卒業後は東京の大学へ進学し、その後はホテル業界に就職しました。

──どのような経験をされてこられたのですか?

最初はホテルで働いていましたが、大きな組織の中では仕入れの制約などがあり、どうしてもワインのラインナップが固定化されてしまうことに歯痒さを感じていました。そこでもっと自由でお客様に寄り添った提案がしたいと考え、より実践的な学びを求めてワインバルへ転職しました。そこでソムリエ資格を取得し、千葉県内の飲食店で料理や店舗運営のノウハウを徹底的に学びました。

──その後、一度佐原に戻り、ご自身で飲食店を開業されていますね。

はい。28歳で戻ったのですが、店には既にベテランの従業員さんがいて、正直なところ私の入る隙間がなかったんです。お店に在籍しているものの、自分の役割は急用時や営業時間外でのピンチヒッター程度。それ以外の時間は明確な役割がなく、歯がゆい思いをする日々でした。家業に戻ったのに力を発揮できないことに葛藤し、佐原駅の北口で「ユーロバル カーヴリシェ」という飲食店を一念発起で開業しました。その後、勢いで成田にも出店したのですが、これが大きな転機となりました。

成田では、契約物件の設備トラブルや立地選定の甘さ、そしてコロナ禍の直撃という三重苦を味わいました。父の病気も重なり、最終的に店を畳んで実家に戻ることになったのですが、この「失敗」を通じて、数字管理や契約内容の確認がいかに重要かを痛感しました。この経験が今の経営判断の確かな土台になっています。

曖昧な慣習を見直す。ソムリエ視点の改革

──お父様の急逝後、家業を継がれてから取り組んだ改革について教えてください。

まず着手したのは、コスト構造の見直しです。外部倉庫を解約して在庫管理を効率化したり、それまで地域のよしみとして無償で行っていた祭りやイベントへの機材貸出・配達について、適正な料金をいただくルール作りを行いました。

長年の慣習を変えることには、当初戸惑いの声もありましたが、事業として長く継続させ、地域に貢献し続けるためには不可欠な判断でした。

──商品ラインナップには、ソムリエとしての経験が活きているのでしょうか?

そうですね。以前は「自分が売りたいお酒」を置いていましたが、今は「お客氏が求めているもの」に合わせてラインナップを揃えることが一番大切であると気が付かされました。

低価格帯の商品は量販店にお任せし、当店では2,000円以上のこだわり銘柄や、高価格帯のギフトにすぐに対応できる商品も充実させてます。

お客様の好みや用途に合わせて、年間を通して飽きさせない提案ができるのは、プロとしての私の強みであり、量販店にはない当店ならではの価値だと思っています。

酒屋は「観光のハブ」。不便さを楽しむ“探検”を提案したい

──香取エリアを一つのチームと見たとき、御社はどのような役割を担いたいとお考えですか?

私は当店を「観光のハブ(拠点)」にしたいと考えています。

観光客の方がまずここに立ち寄り、お酒を見ながら地域の情報を得て、そこから街の中へと回遊していく。そんな導線の入り口になりたいんです。そのために、角打ち(試飲)体験と街歩きをセットにしたツアーなども構想しています。

──髙橋氏が考える「佐原の魅力」とは何でしょうか?

「不便さを楽しむ探検性」です。

きれいに整備された観光地が「用意されたコースを楽しむ場所」だとするなら、佐原はもっと自然体の散策に近い魅力があります。路地裏を歩き、偶然面白い店や人と出会う。そんな「偶発性」こそがこの街の面白さです。

あえて全てを便利にするのではなく、この迷い込むような楽しさを長所と捉え、深く共感してくれるファンを増やしていきたいですね。

スキル以上に。「この街」を語れる人と働きたい

──今後、どのような方と一緒に働きたいですか?

お酒の専門知識よりも、「佐原を語れる人」だと嬉しいですね。

お客様に「この近くで美味しいランチある?」と聞かれたときに、自分の言葉でおすすめを案内できる。そんな日常会話の延長にあるコミュニケーションができるだけで十分です。

──この店で働くことで得られる「やりがい」は何でしょうか?

やはり「人とのつながり」です。観光地なので、遠方からのお客様も多くいらっしゃいます。「また来たよ」と顔を出してくれるファンの方との交流は、何よりの励みになります。

お酒を売るだけでなく、街の案内人としてお客様の旅を彩る。そんな役割を楽しめる方には、とても豊かな環境だと思います。

美酒とマッサージで養う英気

──最後に、お休みの日のリフレッシュ方法を教えてください。

運動もしますが、やはり美味しい食事とお酒ですね。特にシャンパンが好きです。

あとはマッサージ。地元にある中国式のマッサージ店や、「金星(ビーナス)」というお店がお気に入りです。初めての方は少し独特な雰囲気にドキドキするかもしれませんが(笑)、腕は確かですよ。


髙橋隆蔵氏について

千葉県香取市出身。
鹿島学園高等学校卒業後、都内の大学に進学。渋谷の喫茶店でのアルバイト経験を機に、料理や飲食業の基礎を学ぶと同時に、新しい人との交流を楽しむ。
大学卒業後、ホテル業界に就職し、ホテルでのラウンジバー修行を経て、地場のワインバルへ転職。26歳でソムリエ資格を取得後、地元の香取市・佐原に帰郷。飲食業の開業などを経て、現在は家業の高橋酒店店主としてこれからの酒屋経営を目指して多方面でご活躍中。

▼髙橋酒店公式HPはこちらから

▼髙橋酒店公式Instagramはこちらから


(取材後記)

ユーザー名

「私がこのように考えられて、応援してくれる地域の方々がいるのは、先代の父のおかけです。佐原大好きな父が幼少期から色々な事を教えてくれたり、沢山の人脈を残してくれた事が、今の私の財産になってます。そこに私の個性がマリアージュして今の髙橋酒店があると思ってます。」と語る髙橋氏の言葉には、経営者としての冷静な計算と、地域への熱い想いが同居していました。

酒屋を単なる販売店ではなく「街への入り口」と再定義するその視点は、観光地・佐原の新しい楽しみ方を切り拓いていくはずです。

この店で働くことは、佐原という街の「コンシェルジュ」になることなのかもしれません。「観光のハブ」と語る髙橋氏の中には「地域住民のハブ」という温かく優しい思いも内包されているように感じました。

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